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日々、つれづれなるままに
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Posted on Wednesday, Jul 23, 2008 23:23
Posted on Sunday, Jul 20, 2008 23:09
※直江と出会う前の高耶さん。原作沿いです。
『祭囃子は遠く、我は道惑う』riwrite「乞う10題」から、「空に哭く」
囃子の音が、遠くで鳴っていた。それはまるで雷鳴のように低く轟き、俺の中身を掻き乱す。
暑くて何をするのも面倒な夜で、俺は行くあてもなく、駅近い繁華街の雑踏に立っていた。
どことなく浮きだった人々の流れに、反発するように肩をはって逆行した。
(……くだんねぇ)
そういえば美弥は、友達に誘われて隣街の祭に行くといっていただろうか。家を出る美弥を見送ったときにちらりと見えた美弥の友達は、鮮やかな桃色の浴衣を着ていた。美弥も年頃だ。言わないけれど、本当はきっと浴衣を着たいのだろう。赤や青、白や黄、色鮮やかに着飾る少女達を視界の端に捕らえ、口の中に苦いものが込み上げる。浴衣のひとつさえ買ってやれない自分がふがいなかった。きっと美弥には、他にもしなくてもよい我慢をいっぱいさせている。
商店街には、季節ものが沢山並び、服飾店には色鮮やかな浴衣が幾枚も店前に並べられていた。思わずくたびれた財布の中身を考えてしまい、足りない金額にほぞを噛む。
(…金あったって、買ってやれるわけじゃねーのに……)
高校に行きながら生活費を稼ぐのは容易なことではなかった。定期バイトの他、時折無断欠席をして単発バイトを優先しているが、それでもたいしてない収入のないほとんどを飲み代に費やしてしまう父親が僅かに寄越す金と足していっぱいいっぱいギリギリの生活。贅沢な品など、買う余裕があるはずもない。
自分はよかった。中学でめいいっぱいグレてしまった自分は。しかし、劣悪な環境に関わらずまっすぐに育ってくれた妹のことは可哀相でならなかった。
ぼんやりと人並みを見遣り、立ち止まる。
陰りはじめる街が妙に哀しく寂れて見えて、足を速めた。
イライラとして、どこか落ち着かない。
やりきれないこの思いは、美弥のことだけを思ってではない気がした。
何処かに行きたい気がして、心が騒いで、でも何処に行きたいのか分からずに心が苛立つ。
まるで情緒不安定な様は余りにも無様で、ヒトゴトのように口端に笑いが浮かんだ。
いつの間にか足は町を通り過ぎていて、祭囃子は遠くから微かに届くのみ。
街の明かりも減り、空には闇が落ちていた。
少しだけ心が落ち着いて、足取りが緩くなる。
ふと見上げた空はいつか見た空より光が少ない気がして、悔しいような哀しいような腹立たしいようなそんな気になった。
(早く会いに来い)
無意識に心が叫んだ声は、美弥に向けてでも離れた母に向けてでもない。自分の心だというのに捉えきれず、イライラは募るばかりでけれど見上げた空から目を反らすことはできず。
空に哭く。
心のどこかでくすぶる面影を呪う様に呟き、居場所を求めて俺は歩いた。
知らぬ間に時間は過ぎ行き、家についた頃にはあと少しで零時を回るという頃。
美弥は当然先に帰っていて寝ているらしく、部屋の明かりは消え、玄関には美弥が出た時に履いていった靴が踵をきちんと揃えて並べられていた。起こしてはまずいだろうと最低限の明かりで風呂は明日にまわそうと寝る支度を整える。だから、狭いキッチンを通り洗面所へと向かおうとして、ソレに気付いたのは偶然だった。
小さな白いカードと、四角く平べったい包み紙。
「……?」
なんだろうと手をやりカードを見たところで、その意図にようやく気付く。
『HAPPY BIRTHDAY』と印字されたカードの端に『おにいちゃんへ』とメッセージが続いていた。
「……そっか…俺、誕生日か…」
気付いてみれば日付の変わる前の今は自分の誕生日で、美弥はおそらく帰った後にプレゼントを渡すつもりだったのだろう。申し訳ない気持ちになりながら添えられた包みを開くと、中からはキーチェーンのついた長細い黒い財布が出てきた。
擦り切れ、穴が開きそうだった自分の財布を見ていて、それを選んだのだろう。心に湧き上がるのは、くすぐったいような嬉しさと、愛しさ。
(明日起きたら、美弥に礼を言おう)
一日ずっとついて離れなかったイライラはいつの間にか消えており、笑みが零れる。
不快な暑さも忘れベッドに倒れこみ目を閉じれば、見知らぬ空に誰かの呼び声が聞こえた気がした。
Posted on Friday, Jul 18, 2008 20:46
Posted on Tuesday, Jul 15, 2008 00:28
※「岬の家」シリーズの番外編です。
いくつもの命がここにはあって、いくつもの死が、訪れる。
悲しみも、喜びも、怒りも楽しさも、若さも老いも、男も女も関係なく、全てを飲み込んで静寂へと帰していく。
誰かに残る俺の跡も、そうして静かに消えていくのだろうか。
そう思って、少しだけ、胸が軋んだ。
皆が去って、喧騒の後だけが残された部屋。
妙に空寒いような、寂しいような気持ちになって、動く気にもなれず、俺は直江が座るソファの下に座り込んだ。
「……なんかさ、こうしてると嘘みたいだよな」
俺の魂がもうあと僅かも持たずに消滅してしまうかもしれないなどと。
小康状態を保ち、血を吐くことも少なくなった身体。争いから遠ざかり、毎日朝に起き三食を食べ、夜には寝る健康的な生活を続けているからだろうか。それはほんの数ヶ月前の自分からはとても想像もつかない現状で、俺は時折これが夢ではないかと思ってしまう。
けれども目を閉じれば蘇る映像の数々は夢というには生々し過ぎて、まだ塞がり切らない傷が心の表面でじくじくと膿をもらした。
二度と会えない人々。
残していく妹。
死んでしまった盟友。
道を違えた、かつての友。
巻き込んだ見知らぬ人。
恋を知った哀れな獣。
そして傍らにいる、近い未来に必ず悲しませるだろう最も愛しい人間。
俺の考えたことが見えたわけではないだろうに、男は投げ出した俺の手をとると、それが壊れ物ででもあるように、そっと握った。
「……そうですね。嘘、かもしれませんね。貴方は私と来年も、その次の年も、ずっとこうしていて、何を怖がっていたのかと笑っているかもしれない」
「直江」
視線を向けるとそこには俺の頭を膝に乗せ、あまりにも優しい表情で微笑む直江がいた。
その瞳はこの世の全ての哀しみを覗いて来たかのような深い藍を宿していて、しかしまたやがてくるべき哀しみを怖れているように、ちらちらと嫉妬に似た激しい色が燃えていた。運命に連れていかれるとわかっている恋人を持つ男の哀しみとは、どんなものなのだろう。俺は想像することも放棄して、知られないように深く息を吐き出した。
(……どうしたって、俺はこいつを残していくんだから)
どれだけの時を経ても、再び人として巡り会いたかった。だから、いくら男が苦しんでも後をおうことだけは許せなかった。
ならば、俺は何を、この男に残せるのだろう。
(俺が持ってるのは、この気持ち、だけだ)
形のない思いだけを残すことは、男にとって残酷なのではないだろうかとも思う。
だって、もう二度と触れることはできないのだ。
そこに変わらず愛はあるのに、もう二度と。
(そんなの、俺は耐えられるだろうか)
月も、星も、草も木も、この場所は変わらずに続いていくのに、ただ直江だけがいない世界を、俺は生きていくことができるだろうか。
(俺は一度、狂った。二度目は無理かもしれない)
人の命の重さに差はないはずなのに、明らかに自分の中では男の存在が重かった。大切な人を亡くした悲しにくれる人をなぐさめる傍らで、己の唯一を失わなかった事実に安堵する。吐き気がするほどの偽善。
けれど、これが俺だ。
男の卑小さも狡猾さも猥雑さも、ひっくるめて愛した。
その指の爪の先まで、俺のものだと主張した。
盲目的な思いを、もう怖いとは思わない。
ただ、終わりが見えているのが無性に苦しい。
「…夢であったらいいと、いつも思っていますよ」
「直江」
「……情けないですね」
そんなことはない、という言葉は、喉の奥で蟠った。
男の顔を見ることが出来ず、苦さが喉を焼く。
波の音は止まることなく、いつもこの岬の家を取り囲んでいた。
哀しみが、隙間なく押し寄せる、この家を。
Posted on Friday, Aug 24, 2007 21:51