この愛すべき幼子を、私は羨み、嫉み、恋い慕った。
ヒカル、ヒカル。
私のせいで、一足飛びで大人にならざるをえなかった、可哀想なヒカル。
ヒカル。私はあなたを愛しています。
持ちえなかった我が子のように、大切な弟子のように、敬愛する母のように、この心を注ぐ背の君のように。貴方は全てで、その傍はとても気持ちがよかった。
ヒカルの優しさが、私を育み、そして私は新しい喜びを知った。
貴方を育て、見守るという喜びを。
それは苦しみと紙一重で、けれど確かに喜びでした。
ヒカル。
だから、悲しまないで。
私は確かに幸せだったのです。
長い長いまどろみの中で出会った私の光。
人も時も、全ては私を置いて過ぎ行く中で、ヒカルと出会い、私は憂く間もなくなった。
日々が新鮮で、優しい風景に満たされていた。
「ヒカルー!」
「何、佐為?」
目新しいもの、知らぬものばかりで、私が度々ヒカルを呼びとめ質問することに、ヒカルは面倒そうな顔をしながらそれでも邪険にすることなく答えてくれた。
「あれはなんですか!? ピカピカ光ってますけど、らいととは違うものですよね!!」
「あれ? うーん…色違いなだけで基本は一緒だけど」
「ええっ!? ライトとは赤いものもあるのですか!?」
「あるよ。他にも青とか緑とか」
「そんな……私は明かりといえば赤や黄色いものと思っていました」
「まーね」
「でもなぜ赤や緑である必要があるのですか? なにやらあの明かりで書き物を見ようとしても余計に見にくいような気がしますが」
「え? うーん…そりゃそうだよなぁ……なんでだろ。飾りのため、なのかなぁ…」
首をひねるヒカルの横で、一緒に首をひねり考える。
その時は楽しくて優しくて。いつの間にか笑みがこぼれる。
「なんだよ佐為。楽しそうだな」
「ええ、楽しいですよ」
弾むようにヒカルの周りを飛ぶ私を、ヒカルがあきれたような表情で見上げる。
「何がそんなに楽しいんだよ」
棋院の仕事で世間でいう休日が潰れたヒカルの渋面に、ああいけないと顔を戻す。
「そうですね…」
ヒカルと一緒にいるだけで楽しいのですけれども。
そんなことを言ってはまたヒカルが怒ってしまう。
ヒカルは見ていて飽きないほどに喜怒哀楽が激しく、そして照れ屋で優しい。
逃がした視線に、今日も晴れた空に浮かぶ光が映った。
幾年と、変わらぬ光。
「日も月も、変わらないのですね」
ぽつりと呟くとヒカルが気まずそうに顔を背けた。
ああ失敗したな、と思う。
気にしなくてもよいのに、優しいヒカルは私が悲しんでいると思っているのだろう。
違うのに。
変わらぬものに安堵を覚えはするけれど、もし変わらぬものしかこの世になければ、私はずっとヒカルと会うことができなかった。
ヒカル、私のいとし子。
ヒカル、私の光。
「綺麗ですね」
「……うん」
夜道に伸びた影が、ぼんやりと光をはじいた。
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