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« 更新(?)久しぶりです。乃木春です。 | ひとだんらく。 »

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罪と罰(二代目×初代)

 初代は二代目を支持した。
 自分と同じ特殊な力を備えた、同じ腹から出た女を母とする男。実力も人望も十分にあり、それに見合う気概もあった。世代の交代は遅滞なく進み、実質的な権力は、血の上で甥と呼ばれる存在にわたった。予想外だったのは、自分という存在の影響力だ。
 早くから隠棲を望み、漸く叶って一安心したのもつかの間。よくも悪くも、初代という名前の重さは絶大だった。



「私はジャポーネに渡ろうと思う」
「…なんだって?」
 少々気の荒いところのある甥は、それでも自分を慕ってくれていたと思う。逆らうものには容赦のない彼が、私を相手としたときにのみ、三度に一度は立場を譲った。この世で唯一、同じ世界を覗くもの。私達に宿った血はその比類ない強さゆえか、子供に伝えることが困難だった。突然変異で生まれ、その血を継ぐものがいなければ、恐らくこの血は滅んでいくのだろう。それでもよいかと思う。これ以上、生まれず腹の中で死んでゆくあわれな子供を作りたくはなかった。だから唯一、彼のみが。
 しかしその彼をして、私の発言はあまりにも予想外だったのだろう。
「もう私の役目は終わったよ。そうだろう?」
 睨み付ける瞳の中に、葛藤が見えた。
 彼もわかっているのだ。
 進んでトップを退いたものの、未だ初代の影が強すぎることは。急激ともいえる改革を行うのは、彼自身が私の影を振り払おうとあがいているからに外ならない。それが意図されたものではなかろうとも。
「私は、おまえの邪魔になっている」
 トップの交代はなんの軋轢もなく、穏やかなものだった。しかし、組織の創成者がそこに在ることにより、構成員の心が分散していることも事実だった。皆は、甥を二代目であると認めている。他に候補がいなかったこともあり、派閥争いが生じることもなかった。初代を持ち出すことは、例え冗談であっても許されなかった。自分自身が、許さなかった。
「わかってくれないか? ヴィー」
 対峙した肩が、僅かに揺れる。
 愛称で読んだ過去など、すでに遠い記憶のむこうだった。
 自分よりもはるかに逞しく、完成された肉体。近寄りがたい雰囲気を醸しつつも、その造作は整っていた。
 噛み合わせた歯の間から搾り出すような、低い唸り。
「……あんたは勝手だ」
「…そうだね」
 のびた手が、視線の先で迷うように揺れ、そして握られた。
「二度と、戻らないつもりか」
「ああ。だからね、ジャポーネに決めたんだ。あの国の言葉で、日の昇る国、という意味らしい」
 海を越えた遥かむこうに在る国は、どんな国だろうか。
 船はけして安全な交通手段ではなく、疫病や遭難、沈没の可能性はぬぐえない。
 それでも。
「許さねぇ、と言ったら…?」
「私を殺すかい?」
 今のまま拘束もせず、私を放置するとしたら、やがてそう遠くないうちに瓦解はくる。
 それならばいっそ、芽は出る前につむべきだった。私は、現体制を批判する気も、もとの位置に戻るつもりも、毛頭ない。しかし、無実であることは無害であることと同意ではなかった。
 罪のないものの悲哀を、血を、この手に吸い上げ富にした。ならば己ばかりがその業から逃れられると、どうしていえる?
「それもいいかもしれないね」
 くすりと笑った私に、刺すような視線が突き刺さった。
 彼の神経を逆なでするようなことを言った自覚がある。彼は私のことをどう思っているのか。それを知っていた。恥知らずと、罵られても。
「それが、ボンゴレのトップとしての意見なら、私も従おう。…けれど」
 離れがたいのだと、その怒気によって訴える甥を、可愛いと思う。
「私もそう簡単に殺されるわけにはいかないな」
 血を糧に生きてきた。
 罪深い私を、しかし支え、生かしてくれた友がいた。
 この命は、そういったものを積み重ねた上にある。
 射殺すように鋭くとがりきった視線の下で、彼の唇が何かいいたげに歪んで固く閉じられる。言葉に力はなく、既に決まった未来を論じることの無意味さ。
「…殺せるものなら、殺してやりてぇよ」
 憎悪の中に隠れ見えたものが、私の中に燻る熾き火をちろりと刺激した。

 ああ。
 愛しい子よ。
 わが同胞よ。
 哀れな妹の命を糧に、生まれた者よ。
 私はおまえがとても憎く、そして、限りなく憧憬する。

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