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日々、つれづれなるままに
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Posted on Tuesday, Dec 16, 2008 22:28
「水底に消ゆ」
君といる時、僕は「何か」を信じることができる気がした。君の笑い顔も泣き顔も、僕にかかずらうことで受けた沢山の痛みも悲しみも、君のものであるというだけで全てが愛おしい。
(……本当はもう、わかっていたんです)
この気持ちが親愛でも敬愛でもなく、ましてや友愛でもないと。
激しく、制御しようのない想い。
(これは、情愛だ)
受け入れられるはずもなく、伝える術のない想い。
(ねぇ綱吉君。君はもしかして、わかっていたんですか?)
愛を伝えるかわりに皮肉で彼をからかった。それでも彼は、僕を諦めることはなかった。
(切り捨ててしまえば楽だったでしょうに)
愚かしい程の優しさは、それを持つものを傷つける。
憎まれればいいと思った。好かれることはないだろうと思っていた。憎しみは馴染みのある感情で、想像はほの暗い甘美な幸福に満ちていた。好悪を選ばず、強い感情は彼の心に居座るだろう。だから、いっそこれ以上ないというほどに嫌われてしまえば。そうすれば彼の心に残ることができると、そう思っていたのだ。
けれど、彼が誰かを愛する姿を、僕は笑って見守ることができただろうか。
「何をやってるんですか」
傷ついて血を流し倒れるその姿に、堪えようのない憤りを感じた。長く投影した姿は限界が近づいており、彼の傍で他を威嚇するのが精一杯で。これほど我が身の不在を嘆いたことはなかった。
この壁を抜ける術はすでにないだろう。
迫りくる最後は彼の身にも言えたことで、穴のあいた胸から取り返しようのない命が零れてしまっているのだとわかる。白いシャツは鮮やかな朱に染まり、乾く暇もない。
「……わる、い。…むくろ」
消えそうな息の下から紡がれる言葉は今にも消え入りそうで、これが現実なのだといやでも思い知らされた。
息をする度に溢れ出す、鮮血。
「何を…っ」
状況は最悪で、数人の護衛をつけただけの外出を襲撃され、抵抗する間もなく退路を塞がれた。周到に追い詰められ、採れたのはなるべく多くのファミリーを逃がす道のみ。未来を見つけてしまったからこそ、彼は拒否するファミリーを殴り飛ばしてでもその道を選択させた。
「…全く、どういうつもりなんです。愚かにもほどがある」
歪んだように零れ落ちる哄笑を、喉の奥でせきとめる。感情とは異なった反応は、パニックに崩れそうな心を映し出す。幻覚で作った結界が、不安定に揺れた。
ひゅう、と微かに感じる吐息。
「……ごめん、な」
声を発しては鋭く咳込む唇が、血を吐き出した。傷つけたのは肺だ。送り出される前の色鮮やかな朱が、顎を伝って地に落ちた。
「もう、いい、よ。……けっ、かい…つらい、だ…ろ?」
「…馬鹿なことを!」
結界を手放せば、待っているのはひとつの現実だった。
削りすぎた精神エネルギーは、捕われた肉体に苦痛を齎すのだろう。しかし、それがどうしたというのか。
無駄なことだと知っていて、けれどくるはずのない迎えを渇望する。
痛みに時折眉をしかめる彼の瞳から、不随意の涙が零れ落ち、それはあまりにも美しく。そして、不意に微笑んだ。
なせ今僕の目は熱く、映すものを歪ませるだろう。
「つきあっ、て…れて………ありが、と…」
伸びた指先が、つかの間震えを止めて。
僕の手に触れた。
形作る唇はもう音を発する事なく、ただわなないて。
行け、と。そう、
僅かに触れた指先から流れ込んだ衝撃が、ぎりぎりの力で押さえ込んでいた幻影を遠ざける。己の姿が壊れかけのテレビ映像のように荒くぶれるのを感じ、怒りと焦躁で彼を睨む。
もうどうあがいても遠ざかるばかりの彼は、そして。
再び無明の闇に囚われる僕に、最期の微笑みを、刻んだ。
ごぽり、と嫌な音とともに水の中を泡が昇っていく。心はこの闇と同じ、黒に塗り潰され、澱んだ水底をたゆたった。
もう何もかもが遠すぎて、君の姿が見つからない。
感覚が閉じていく。
限界を越えて使った力が、全身を襲う鋭い痛みとなって、意識を掻き乱す。
(これは、現実か)
今はもう、この見離された檻の中で、闇に溶けてしまえたらと。光のない明日を拒んで、そう願い。
ひとり、目を閉じた。
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