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« 直江さん、誕生日おめでとうございます! | GWまで »

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今日の君へ<ツナハル>

「ツナさん! ハルは、本日ツナさんを所望します!!」
 突然、朝、チャイムの音にドアを開けたらハルがいた。
(やー。流石ハル。朝からハイテンションだなー…)
 麗らかな連休の初日。昼間で惰眠を貪ろうと思っていたがそれは恐怖の俺様家庭教師に阻止された。もう俺には平穏な休日など夢のまた夢なのかもしれない。
「…ってイヤイヤ、そうじゃなくて……おはよう」
 これもなんか違うんじゃないか? と思いつつ挨拶をすると、ハルが満面の笑みでそれに答えた。
「おはようございます、ツナさんっ!!」
(あ、かわいい)
 にっこにこといつでも笑みの絶えないハルは、正直言うととても可愛い。俺の中では京子ちゃんが不動のベストワンを獲得し続けているけど、ハルのほうが可愛いって言う人もたくさんいると思う。そもそもこれは主観的なことであって優劣を決めるようなものではないだろうし、それはとても失礼なことだ。しかし、あくまで可愛いだけであって、あまりにも近くなりすぎた存在への思いは、最早女の子、というより家族へのそれに近い。だいたいハルは、遠慮なくずかずかと近づいてくるものだから、距離がとりにくいのだ。いつのまにか懐に入ってきてしまった。そしてそれをしょうがないな、と許させてしまう天性の資質。知らない振りで他人のままいられるヤツがいたら、いっそお目にかかりたい。
 しかしそれでもやっぱりハルはハルで、慣れたからといってその突飛な行動の意図をつかめるわけではなかった。全く。
「……で、どうしたの朝から」
 追い返すことが無理なのは承知の上だ。特に今日は予定が入っていなかったよな、と諦めの境地でハルに聞いた。
「ふふふふふっ! だから今日一日ハルにツナさんをくださいってお願いですよっ!」
「ええと……ごめんハル。意味わかんないんだけど…」
 考えることを放棄して、繰り返し聞いた俺に、ハルは満面の笑みで笑った。
「デートのお誘いです!」
 うん。ホント明快な答えをありがとう。
「……って、えええーっ!? なんで俺がハルと!?」
 デートというものは恋人同士の男女がするものではないだろうか。悲しいコトながら、高校に入ったばっかの俺は、未だ恋人という存在を得たことがない。なんとなく、そういう雰囲気になったことはあったけれど、まだ決定的な言葉を互いに言ったことがないのだ。彼女は俺と同じ高校で、既に校内にファンクラブもできていた。…高嶺の花ではあるけれど。
「いいじゃないですか、ハルとしましょうよ、デート!」
「えええええ……あだっっ!」
 返答に窮する俺の後頭部を、衝撃が襲う。
「……り、ぼーん…」
 涙目で振り返った俺に、身体年齢三歳ほどのリボーンが涼しげな顔で愛銃を撫で労わっていた。もしかしなくてもその黒光りする物体で殴られたのだろう。僅かに膨らみ始めている瘤が悲しい。
 ナニをするんだ、と抗議の声をあげる前にひと睨み。
「テメェ、男なら女に誘いの言葉を言わせておいて戸惑ってんじゃねーよ」
 さっさと行って存分にエスコートして来い、というリボーンの目は「断ったら殺す」と言っていて、俺は「そもそも誘いの言葉を言わせてなんかないよね? ハルの自発的行動だよね?」という切実な反論は封じられた。確かに女の子に誘わせといて断るなんて、このフェミニストの国からきた家庭教師様に教えられた俺に、できるはずもないのだけれど。
「……ハル、ちょっと…三十分ほど、お茶でもしててもらっていいかな…?」
 やるからには中途半端は許されない。少なくとも、家着のだるっとしたシャツにハーフパンツ、寝癖大爆発のこの頭では…俺が嫌だ。
 家の中に入ることを促した俺に、ハルは変わらず太陽のような笑みで大きく頷いた。


 頑張ってこいよ、と意味不明な言葉とともに送り出された俺とハルがどこへいったかというと、取り合えず電車に乗って近隣の大きな街へと繰り出した。どこへいったらいいのか迷った俺がハルに希望を聞いたら、買い物やお茶がしたいといわれたのだ。買い物だったら京子ちゃんやビアンキのほうが適役ではないかと思ったが、あまりにハルが嬉しそうなのでいえなかった。
 さり気無くエスコートを意識しつつ、ハルが見たいといった店を二人で回った。小物や生活雑貨が中心の店ばかりで、服飾品ではなかったことに安堵する。女の子しかいない店内に俺一人紛れ込むなど、想像するだけでくらくらと眩暈がした。もしかしたらハルが気を使ってくれたのかもしれない。アクセサリーや食器やぬいぐるみ。ハルが可愛い! と言うたびに零す笑顔はとても可愛らしくて、道を歩いていても時折すれ違う男の視線がハルを追うことに気付く。
(やっぱり可愛いんだよな…)
 いまだに正面からアタックをかけられている身としては少々複雑だったが。
 ハルがオススメのケーキがある店でお茶をして、また雑貨を見て、笑って、話して。
 帰りの電車の中で眠そうなハルに肩を貸すと、ハルはまた嬉しそうに微笑みつつ忠告した。
「ツナさん。あまり優しくするとハルは勘違いしますよ! でも今日は甘えさせていただきます!!」
 とん、と軽い衝撃が肩を叩き、目を閉じたハルが俺の肩に寄りかかる。
「ハルはツナさんがすきなんですからね」
「…うん」
 ヒドイ人間だな俺は。
 眠るハルが、どうかずっと笑っていてくれたらいいと思う。
 その望みだけはかなえられないくせに。
 勝手で、傲慢だった。
 次々と変わる景色は、すぐに見慣れたものに変わる。
 ハルを送ってく道のりで、夕日の中、ちらりと盗み見た横顔。
 大人びた憂い顔にはっとする。
 初めて見る表情だった。
「もうハルのうちに着いちゃいましたね…」
 残念そうなハルと、見たことのある門扉。
「今日はありがとうございました!」
 盗み見た憂い顔など幻だったかのごとく、華やかに咲く笑顔。
「ハル」
 残酷なことをしている、と思う。
 でも、笑っていて欲しいんだ。
 どうか。
「…これ」
 おそるおそる差し出した小さな包みを、呆然と差し出された手に落とす。
 小さな小さな雑貨店で、ハルが可愛いといった指輪。
 それと同じモチーフの、ネックレス。
 約束はあげられないくせに、本当に勝手な男だ。
「誕生日、おめでとう」
 喫茶店でお茶をしていて、ようやく気がついた。鈍いにもほどがある。
 噛み締めるように、いつもよりゆっくりとケーキを食べていたハル。
「…ツナさんッ…」
 一瞬泣きそうな顔をしたハルに、今度は俺が笑いかけた。
 弱弱しい笑みだったと思う。
 でも。
 ハルは応えるように満面の笑みを浮かべて。
「ありがとうございます。ツナさん」
 大切にします。
 そう胸に抱きしめられた小さな袋は、ハルの手の中で夕日に赤く染まっていた。


 おめでとう、愛しき君よ。
 願わくば、幸多からんことを。

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