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落星<銀英ss>

※田中芳樹著『銀河英雄伝説』の二次創作です。提督が腿を打たれた後の話ですので注意。流血はなしです。ユリアン中心。











rewrite「乞う、10題」より、「決して他は望まないから」

 その人がけして見ることのない手紙を、延々と書き続けている。
 この気持ちに気付いたのはもう随分と昔のことのような気がするけれど、とても僕にはあの人を幸せにすることはできなかった。この思いはもう、叶うことなどない。出会った頃からあの人は近いようでとても遠いところにいて、僕はただ、忠犬のようにあの人の影だけを追いかけていた。けして追いつけないことに焦燥と、どこかしら安堵を感じながら。
 僕は臆病で、傲慢で、鼻持ちがならないやつだった。
 ずっとその傍に僕の居場所があるのだと、信じて疑わなかったのだ。
 偉そうに「守って差し上げます」だなんて。一体あの時の僕はどうしていたというんだろう!
 結局僕に出来たのは、守っているつもりで口うるさいことを言ってはあの人のささやかな楽しみを奪うばかりだった。暖かい紅茶に、香り高いブランデーをたくさん。そんな、簡単な、ことなのに。
 僕は所詮口ばかりの頭でっかちで、あの人の最期に傍にいてあげることさえもできなかった。
 全てが僕のせいだなんて言ったら、きっとあの人は怒るだろう。
『なぁユリアン。おまえがくしゃみをしたら宇宙は消えてなくなるのかい? そんなはずはないだろう? 物事をあまり深く考えすぎるのは少年期の業ではあるけどね。過ぎれば毒だよ。全ての原因を自分に求めるのは傲慢で危険な考えだ』
 でも提督。後悔をしないなんて、出来るはずがないんです。
 貴方さえいれば、未来は変わっていたかもしれないのに。
(でも、もう貴方はいない)
 亡国の英雄だとか、理想に殉じただなどと、綺麗ごとは聞き飽きた。
 それに提督は、英雄になることなど、一度も望まなかった。
(それを殺したのは、僕たちみんな、だ)
 彼をここに引きとめ続けたことが。



 押し殺したような泣き声が、宇宙を彩る。
 花に包まれたその人は、穏やかな顔で。
 もう、笑うことはない。



(神様。神様。僕には、たった一つだけなんです)
 この望みさえ叶えてくれれば、他に何を失ってもいい。
 国を失っても、この場所を失っても、それでも。
(ただ、この人だけを)
 決して他は望まないから。


 半身を失った女性の静かな涙が、ぽたりと落ちて、花を滑った。

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